第2部 シエラネバダ
 第1章 ハイシェラの夏
  6月5日(木)Kennedy Meadow〜6月18日(水)RedsMeadow


6月9日(月)
 5時45分起床、マウンテンハウスのBreakfastはただのパティで失望。とんこつラーメンに入れて食べる。/7時15分出発。DNAは7時過ぎまで寝ていたので後において歩き出す。空気が冷たい。/荷物が重いせいか、体が重く感じる。ペースはそんなに悪くないのだが、妙に疲れる。/11時45分、GuyotflatのRidge。4年前に通った道を行く。/14:00、CrubtreeMeadow 4年前と変わらぬ景色。ホイットニーの眺めが良い。/左足の筋肉痛が再発。WalleceCreek目指して黙々と歩く。/16時、WalleceCreekの渡渉。水が凍るように冷たい。ここでキャンプするつもりだったが、DNAが先に行きたがるので歩を進める。16時30分、WrightCreek渡渉。/思い切って、BighornPlateauまで歩くことにする。そう決めると足取りも軽い。/DNAは焚き火が必要なので手前でキャンプ。17:40 BighornPlateau着。何度来ても迫力ある景色。/夕食はカレー、卵スープ。/風が冷たいが、外でタバコを吸う。夕焼けの写真を10枚以上撮る。いいアングルで決まったのが1枚。現像が楽しみだ。/キャンプ地の良し悪しがその日の満足度を左右すると言われたが、その通りだ。/明日はForesterPassを越える。雪はどうだろうか。とりあえず、早起きを心がけよう。/寒いが、あとで星を見てみたい。朝焼けも綺麗だろうなあ。/とうとう、ここまでひとりで来るようになってしまった。/Today 20.8Mi Total 767.7Mi

6月10日(火)
 6時40分起床。すでに朝陽がテントを照らしている。/昨夜は冷え込んだ。フリースを着たまま眠る。/朝食はラーメン。8時出発。いきなり渡渉。/標高があがるにつれ、トレイルが雪で覆われてたどりづらい。トレイルは川と化している。予想以上に時間をとられる。/12時15分、Forester Pass着。写真を撮ろうとしたら三脚のバランスが悪く、2度落下。レンズが開いていたのが痛い。/その後、シャッターがうまく閉まらなくなる。/もしやと思って携帯を出すと、電波が入る。松本さんにTEL。/13時、Forester Pass発。積雪が多く、体が沈んで前に進めない。雨具を着て、転がるように斜面を下る。時間、体力共に非常に辛い。カメラを壊したこともあいまって、精神的にも非常に厳しい時間が続く。/トレイルはほとんど雪で埋まって見えないので、雪が溶けている斜面を選んでひたすら下る。水がいたるところを流れていて、靴は常にずぶぬれ。久々にこんなにキツイ歩き。/18時、PeterBasinTrailのJunction。4.5Miを5時間かかった計算。気合であと2.8Miを下る。/19時過ぎ、ViddetMeadow着。前回ここに泊まった時も苦しかった記憶がある。/WalkdadとDNA、疲れ果てて言葉も少ない。/夕食はマウンテンハウスのSweet&SourPork、マッシュドポテト、タバコが美味い。/DNAが熊を見たというので、食料は全てBearBoxにしまう。/今日のForester Passが一番ハードであることを祈ろう。/Today 13.8Mi Total781.5Mi

カリフォルニア州を背骨のように南北に貫く、シエラネバダ山脈。アメリカ本土最高峰のホイットニー山をはじめとする標高4000m峰が連なるこの山脈のことは、日本ではまだあまり知られていない。ここが、岩と雪、そして湖に囲まれたバックパッカーの聖地であることも。

ハイシエラを訪れるのは3度目である。1度目は99年の夏に約1週間。2度目は2000年の夏にジョン・ミューア・トレイル340kmを。しかし、そのいずれも季節は晩夏、トレイルは乾き、湿原の草花もはや秋の装いを見せるころだったため、残雪を踏みしめて歩くのは今回が初めてだった。

残雪の残るシエラの美しさを、どう表現すればよいだろう。深く緑なす、乾いた針葉樹の森もシエラの魅力のひとつだが、標高10000フィートを超えた山々の景観は荘厳、の一言をもって尽きる。荒々しく、雄々しく、圧倒的な質量をもって迫る岩と、その胸元を彩る雪の世界。そして点在する鉱物のような色合いの碧い湖。抜けるような空の青さが、ともすれば厳しく、荒涼として映るこの景色を、明るく、開放的なものに塗り替えている。

足元の雪は日が高くなるまでは固く凍りつき、光を鋭く反射させる。そう、この時期のシエラはどこまでもまぶしいのだ。残雪は溶け出し、そこかしこに小さな流れとなって谷あいへ流れ込む。ひとつひとつの水しぶきに、初夏の日差しは燦々と注ぎ、そこにまた光が生まれる。ジョン・ミューアが愛し、世界中のバックパッカーが憧れるシエラの夏の真っ只中に、僕も、確かに、存在していたのだ。

Big Whitney Meadow。
Sequoia National Parkのボーダーライン。このときは今回の旅の中でも最も長い無補給期間であったので、8日分の食料を背負っていた。よくこんなに荷物背負って歩けたなあといま思うと恐れ入る。
Mt,Gyout。乾いた砂と乾いた森。これもシエラの特徴。
Crabtree Meadow。マウントホイットニーへの登山路への分岐点。雲の向こうに見え隠れするのが北米本土最高峰のホイットニー。前回登っているので今回はパスして先を急ぐことに。
Bighorn Plateauへの手前。森林限界のあたりで荒涼とした景色が広がる。
この時期のシエラは午後になるとこうした高い雲が出た。時には雷鳴も。不安定な初夏の空模様。
6月9日のキャンプ地、Bighorn Plateau。シエラの中でも好きな場所のひとつ。向こうに広がる山の手前には深い谷が横たわっている。
空が青い。こんなに青く、広い空を見たことが、ありますか。
食事を終えるころ、空が燃え出した。刻一刻と色を変える。
雲をキャンバスに、空はその色を変える。
この広い高原に、僕ひとり。沈む日を眺める。
こんなキャンプはそう何度もできるもんじゃない。一日の満足度はその日のキャンプに大きく左右される。
6月10日朝。朝陽があたる。
出発。
フォレスターパス直下。登りの写真はきつかったためか存在しない。この写真、雪のトラバースルートの左側ははるか下まで続く絶壁。単独行の場合、最も緊張する一瞬である。
PCT最高地点、フォレスターパス。標高13180Feet。この写真の撮影直後、カメラが転倒、以後シャッターの調子が悪くなる。これからが絶景の連続!というときのアクシデントにかなりへこむ。
来し方を振り返るとこんな感じ。
だいぶ山男らしくなってきたでしょ。
シャッター不具合のため、ややピンボケだが。標高13180フィートから感動をケイタイTEL。21世紀のバックパッカーである。

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