第3部 北カリフォルニア
 第1章 根性と人情のトレイル(3)

  7月1日(火)SouthLakeTahoe〜7月21日(月)Castella


7月11日(金)
 7時10分起床。9時、POで郵便物を受け取り、BOXをSeiadValleyに送って出発。彼女とTEL。/阪神のM48、中学生の幼児殺しと、日本ではおかしなことが続いているらしい。株価は1万円回復のようす。/アメリカへのビザ申請は全員要面接になったらしい。/10時前、トレイルに戻る。犬がついてくる。ひたすら暑い登り。水は多いが単調。淡々と進む。/蚊が多い。/18時過ぎ、ColdSpring着。ちょうど車で来ていた陽気な夫婦にペプシをもらう。旦那は今日が誕生日(48歳)で、いつかPCTをやりたいと話しており、いろいろ聞かれる。だが、写真を撮ろうと車に戻ったとき、突然ぎっくり腰を起こしたらしく、心配。BurneyFallsのストアに食料を送ると言ってくれた。アドレスを交換する。感謝。/少し早いが水があるのでここでキャンプ。/送ってもらった手紙や新聞を読みながら夕食。マック&チーズ、みそ汁。/興味深いが、トレイルに本や新聞はやはり必要ない。ニュースは知る必要が無いものばかりだ。/腰も痛いし、左足のマメも痛い。明日、平坦とはいえ30マイル歩けるだろうか。早起き早出が肝心。/満月が近く、月がきれいだ。森の中のキャンプは展望が無いが、木陰から見る月も良い。/そろそろ、この旅の終わりを考えるときが来ている。明日か、明後日は2分の1を越える。/DNAとも話したが、僕はこのあと何をすべきなのだろうか?Newsweekを読んでいたら、アメリカで政治の仕事をしてみたいとも思う。/日本で彼女と暮らすのも悪くない。 Today 19.4Mi Total 1302.5Mi

 週末のキャンプ場などに行くと、焚き火の脇でチェアーに腰掛け、文庫本などを楽しむ人の姿を目にすることはそう珍しいことではない。アウトドアレジャーが生活に根付いたアメリカでは、キャンプ場にまでニューススタンドがあって、朝からキャンプサイトでコーヒー片手に新聞を広げるなんて人もいる。

 僕も当初は、文庫本の1冊くらいバックパックに入れてテントの中で読んだり、あるいは焚き火の明かりを頼りに手紙を書いたり、といったキャンプの夜を想像していた。新聞だって読みたくなるだろうから、ある程度定期的に日本から送ってもらえるよう依頼をしていた。

 ところが、である。トレイルで本を読むことは結局一度としてなかった。新聞・雑誌は街のモーテルで読むにはいいが、テントの中で読む気はおきなかったし、試してみるとものすごい違和感があった。紙面に書かれているニュースはどれも現実感のないものばかりで、平たくいえばどうでもいいことばかりに感じられて仕方がなかった。樹間から月の光が差し込む北カリフォルニアの森の中で、ひとり1週間遅れの日本経済新聞を読むのはどう考えたって奇妙な光景だった。

 もちろん、本や雑誌を持ち運べばそれだけ荷物は重くなるし、それだけのためにランタンを担ぐバックパッカーはいない。日が昇れば起き、日が沈めば眠るのがPCTスルーハイカーの一日なので、そのなかに読書の楽しみを持ち込む余裕はないとも言える。だけれど、自然の中で、自然のリズムに従って暮らすトレイルの生活は、文学の香りや日々の刺激的なニュースなどが無くても、それだけで充分に幸福だったのだと思う。
7月11日、ColdSpringsで出会った陽気な夫婦。旦那は今日が誕生日だったらしく、「いつかPCTをやりたいと思ってんだけど、今日あんたに会えたのは最高のバースデープレゼントだよ!」といって大喜びしてくれた。ぎっくり腰の様子が心配だが。
遠くにうっすらとラッセン火山国立公園の秀峰が見えてきた。
7月12日夜、StoverSpringsで。一晩中周りを鹿がうろうろして落ち着かない。夜が明けたら洗濯物がすべて泥だらけで発見された。いい遊び道具になってしまったようだ。
7月13日、Lassen火山国立公園内にて。泥の温泉池。ぐつぐつ煮立っていて硫黄の香り。日本ならさしずめ泥地獄か。温泉がわいている。
あっという間に通り過ぎてしまったLassen火山国立公園。トレイルの整備状況もそんなによくなく、展望がいい場所もそんなにあるわけではない。国立公園のはしっこをちょっと通過する感じ。

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