第3部 北カリフォルニア
 第2章 さらばカリフォルニア(2)
  7月21日(月)Castella〜7月29日(火)CA−OR州境


7月24日(木)
 6時20分過ぎ起床。夜半に雨は完全に上がり、テントもほぼ乾いている。/7時20分出発。曇っているので涼しく、快適なハイクが続く。景色も良い。/11時30分、Hwy3を越える、立派なトレイルヘッド。/ここからトリニティ・アルプス・ウィルダネスに入る。眺めのいい、気持ちのいいトレイル。Diesel,snakecharmanのペアと抜きつ抜かれつしながら進む。/とりとめもなく、今後のことや女の子のことを考えながら歩く。/18時過ぎ、19時迄のハイクを目指していたが昨日とほぼ同じ時刻に雷雨。あきらめて稜線上にテントを張る。/幸い、雨はすぐ上がる。/夕食はパスタ。さすがに飽きてきた。/夕焼けがとてつもなく綺麗。雨上がりの雲にオレンジ色の夕日が映えて感動。カメラが壊れているのが悔やまれる。/明日はエトナか。シャツが汗臭い。/トレイルから家にTEL、母と話す。/Today 27.4Mi Total 1576.8
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 なんの話をここで紹介しようか、と考えていたときに、ふと気づいた。PCTの旅が終わって1年余り経つが、この間一度もキャンプに行かず、テントもシュラフも使っていないことを。まあ、今年1年に起こった出来事の数々を思えば、それはPCTにも比肩しうるほどのことばかりだけれど。

 日記と地図を見つめていれば、1年以上前のことでも記憶は甦る。このHwy3のトレイルヘッドであったことを、思い出す。このトレイルヘッドは良く整備されていて、大きな看板が立っていた。(下の写真参照)そして、ここからトレイルを進んでいたときに、後ろからマウンテンバイクが走ってきた。そしてそのとき、このライダーを注意すべきかどうか、注意するなら英語でなんと言うべきか、悩んで結局声をかけられないまま道を譲ってしまったことまで思い出した。

 連邦法により設置され、管理されているPCTは、人と馬以外が通行することを認めていない。あくまで、ハイカーと馬のためのトレイルなのだが、そうしたトレイルは同時に、マウンテンバイクやオフロードバイクにとっても格好のコースになる。ロサンゼルスから近いトレイルの一部ではトレイルが轍だらけところもあった。

 日本でも一時、富士樹海の林道にオフロードバイクが入り、木の根を傷つけたりして問題になったが、その点アメリカでは人や馬が歩くトレイルと、モータースポーツ用のトレイルとを分けて整備し、トラブルが起こらないよう、また自然を傷つけることの無いように配慮がされている。とはいえ、一部にはまだそうした理解の浅い人たちがいるのはどこの国も同じなのだろう。

 この問題に関しては、近刊のPCTコミュニケーター(PCT協会の会報)でも議論が行われていた。いわく、「PCTとはいえ、国民共通の自然の財産。これをハイカーだけに限定するのではなく、マウンテンバイクなどの愛好者にも門戸を開いて、広く利用すべきか」「自然を守り、ハイカーの安全と楽しみを守るためにバイクの利用は引き続き禁止すべきか」、と。

 PCT協会の結論としては、車輪のついた乗り物がトレイルに入ることで自然が受けるのダメージやハイカーの安全を鑑み、引き続きトレイルを人と馬の聖域として守る方向に落ち着いたようである。妥当な結論だとは思うが、大事なのは結論だけでなく、自然の保護と利用について議論が行われ、多くの人が保護と利用それぞれの重要性を考え、また楽しんでいるという過程なのだと思う。
穏やかな北カリフォルニアの山並み。このあたりになると雲が出てきて雨も降るようになった。
トレイルヘッド。日本語で言えば登山口か。地勢や動植物生、安全上の注意点などいろいろ書いてある。
稜線の風にぽつんと立つ道標。この道標は今もここで風に吹かれつつ、ハイカーを待っているのだろうか。
この日の夕焼けは荘厳としか形容できない。夕闇迫る夜空に血を流したような、強烈な朱だった。

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