第5部ワシントン
 第2章 トレイル閉鎖!?そしてカナダの大地へ
  2003年9月5日(金)Stehekin〜2003年9月9日(火)Manning Park,CANADA


9月5日(金)
 6:30起床。冷え込んで、夜露がひどい。夜半からテントの中まで湿気が入り込んで気持ち悪い。/パッキングして7:30出発。オルタネートルートを使ってどんどん下る。荷物は軽いが疲れのせいか足は重い。/ひたすら下りのルートを進む。/松の実が落ちてきて怖い。/14時過ぎ、スプッピーに追いつくと同時にRangerStation着。バスを待つ。/

 Information Boardに『山火事によりPCTがCloseになっている』との情報。また、この影響でカナダ国境が閉じている(Backcountryからの入国が禁止になっている)とのこと。ショック。/スプッピーと話し、とりあえず歩いてカナダ国境に達しようとの結論。/バスに乗ったとたんにどっと疲れが出る。歩いて国境を越えられないのが残念だ。/

 Stehekinのリゾートに着き、まずチェックイン。2部屋残っていたがバスの中であったカップルに一部屋譲り、部屋をシェアすることにする。/P.Oで荷物をPickupし、RangerStationでカナダ国境までのオルタネートルートをチェック。何とか道はつながっていそうで安心。/93$の部屋、60$出してベッドを使うことに。スプッピーに感謝。シャワーを浴びて、レストランでディナー。31$。ランドリーを回し、松本さんに状況を報告。/

 Strechと三人で、カナダ国境からのBoatRideを予約。水曜の朝10:00。/SeatleへのBackRideも手配できて。/旅が終わる。/PCTをMannnigParkで終えられないのは残念だが、これもまた今年のPCTだ。最後まで楽しんで歩きたい。

 この年のアメリカ西海岸の山火事は大変なものだったらしい。特に、オレゴン、ワシントンの両州は各地で少雨・高温のために山火事が頻発し、住民が避難する騒ぎになったところもあるようだ。このあと冬場にかけてはカリフォルニアのロサンゼルス郊外でも大規模な山火事があり、このニュースは日本でも大きく取り上げられた。

 日記にあるように、僕のPCTの旅も最後にきて大きなトラブルに見舞われた。なんと、PCTの最後の区間、Stehekinからカナダ国境手前の90マイルのうち、主要な部分が山火事のため立ち入りを禁止されてしまったのだ。レンジャーに話を聞いたが、『危険だから絶対に入るな。法を犯したら罰金1000$と懲役刑だ』とにべもない。
 
 もうひとつ立ちはだかったのは、この山火事のため、バックカントリーからのカナダへの入国が禁止されている、という情報だった。遭難事故を避けるため、通常は自由に認められている山道からの入国を禁止しているというのだ。まさかフェンスが張ってあって見回りがいるとは思えないので、無視して入ることも考えたが、のちのちカナダで「オマエどっから入ってきた」と聞かれた際に困ってしまう。

 メキシコから、いや日本からはるばる歩いてきて、最後の最後、あと100マイル足らずのところでカナダにたどり着けないなんて、こんなことってあるだろうか。とはいえレンジャーに捕まるわけにもいかないし、山火事の煙にまかれて焼け死んでは元も子も無い。これにはまいった。

 このときに、Split-Peaという心強い友人と一緒にいたことは何よりの幸運だった。彼は僕と同い年で、今年大学を卒業し、本当なら9月から就職のところを、内定先に頼んで「PCTが終わるまで」入社を先延ばししてもらっているという度胸のある奴だ。彼はPCTが閉鎖されていると聞いて一瞬顔を曇らせたが、すぐに気を取り直して、「何か他の方法を考えよう」と共にレンジャーステーションに僕を誘ってくれた。

 レンジャーステーションで地図と首っ引きで僕らがだした結論は、ここから別のトレイルを使ってカナダ国境まで歩き、入国ができないなら国境からまた引き返す、というものだった。幸いにもここはNorth Cascades国立公園で、トレイルが他にもいくつか整備されていたのも、このプランを助けてくれた。何が何でも、歩いてカナダまで行きたかった。

 晩飯を食い終わる頃には、もうショックはなかった。これが今年のPCTなんだと考え、気分はすっきりしていた。どうやらこのトラブルはPCTの「卒業試験」となりそうだ。
ピンボケだが、PCT Trail Closureと書いてあるのが読めるだろうか。これを見て、踏破をあきらめたハイカーもいるかと思うとやりきれない。
9月6日朝、Stehekinのレストラン前にて。ノースカスケード国立公園の地図を手に。PCTは歩けないが、道はある。カナダはもうすぐそこなのだから。
山奥の湖畔のリゾート、Stehekin。Lake Chalanと言う細長い湖(ダム湖?)の端にある。後ろは山火事のために煙って見えない。

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