第1部 南カリフォルニア
第3章 サボテンと雪(1)
4月27日(日)マウント・ラグナ〜5月4日(日)イーディルワイルド
5月1日(木) MayDay
5時40分起床。手早く荷造り。トレイルミックスを水で流し込む。/6時半出発。トレイルに戻る。水を少なく持ってきたのが気になる。/ダグとジョンは結構早い。荷物が重いせいもあるが息が上がる。/11時ごろまでは何とか追走できたが、それ以降は追いつけず。/暑い日で水の消費量も多い。/14時 チワワ・キャニオンでパットおばさん。本当に助かる。水が無ければ結構大変なところだった。/17時過ぎまで歩いてテントを張る。/夕食はすき焼き丼&焼き鳥丼。一日一本のタバコがしみる。 Today 19.6Mi Total 130.2Mi
5月2日(金)
5時に目が覚めるも、眠気に勝てず、6時40分起床。/快便/8時出発。足取りは軽いが、暑い。/10時半、TuleSprings 13:45、Anza Hiker's Oasisで給水。/ひたすら歌を歌って士気を鼓舞しながら歩く。/18時、Hwy74を越える。おばちゃんに水をもらう。/親子丼の夕食。北米支店さん他にTEL。掲示板が活発に回っているようで嬉しい。/しかし、つらい歩きが続く。明日は早起きしよう。 Today 23.5Mi, Total 153.7Mi
荒野を旅するバックパッカーにとって、何よりも重要なのは『次の水場(みずば)はどこか』ということだ。特に、メキシコ国境からシェラネバダ山脈に入るまでの南カリフォルニア地域・700マイルにおいてこの問題はまさに死活問題となる。摂氏30度を越える気温の中、15kg以上の荷物を背負い、突き刺すような陽射しに灼かれながら砂漠を歩くPCTハイカーにとって、水を失うことはそのまま生命の危険を意味することは容易に想像できるのではないだろうか。この時期の日記を読み返しても、水に関する記述が多いのに気づく。
したがって、その日の行程を考えるときには、まず水場を確認することになる。地図・データブック・ハイカー同士での口コミの情報、全てを総合して水のありかを探す。トレイル上を流れる沢や泉、キャンプ場などの人工施設、そして、トレイルエンジェルと呼ばれるボランティア達が補給してくれる水場のありかと、区間距離を計算し、その結果としてその日の行程及びどれだけの水を背負っていけばいいかを算出するのだ。このあたりでは次の水場まで20マイル(32km)以上というのはざらだったので、1泊2日分+αの水を計算して背負うこともしばしばだ。
この計算作業は慣れるまでがなかなか難しい。当初は、自分が一日にどれくらいの水を消費するのかわからず、心配するあまり余分に担いでいって体力を浪費することも多かった。かといって、少なく見積もっていって万一水が枯れていたりした場合には目も当てられない。また、その日の天候やトレイルの高低差によっても大きく水の消費量は変化するし、食事のメニューによっても影響がある。たとえば、インスタントラーメンは500mlものお湯を必要とし、しかも塩分が多いためにそのあと喉が渇きやすかったりするので、こうした水の少ない地域には適さない献立である、ということも歩き出してはじめて気づいたことだった。
(幾度となく行われた試行錯誤の結果、僕の場合、3Lあれば20マイル・1泊2日の旅は十分続けられるという結論に達した。もちろんこれは個人差があるが)
水を持てば持っただけ重くなるし、持たなければ歩けない。最低限のリスクヘッジを行いつつ、ぎりぎりの効率化と軽量化を図るためにバックパッカーは日々知恵を絞りながら歩く。ただ歩くだけとはいえ頭は使うのだ。
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