第1部 南カリフォルニア
 第3章 サボテンときどき雪(3)
  4月27日(日)マウントラグナ〜5月11日(日)ビッグベアシティー


5月5日(月) 7時起床、めざましTVのアメリカ版を見る。/8時チェックアウト/Jan's Red Kettleで朝食。久しぶりに牛乳を飲む。/9時に郵便局でResupply。重い。/Tincup,Dug達に連れられてDeerSpringsTrailを登る。/彼らのペースは速い。ついてゆけず、途中で別れる。/ところが、足跡をたどっていったら道を見失い雪の中で2時間ほどロスする。/一人で道もわからなくなるというのは本当に不安だ。/基本に帰って、地形を確かめ、わかるところまで戻る。/無事雪に埋もれたマーカーとトレイルを発見。安心する。/Deer Creekで水を作る。さらに重い。/16:45、少し早いが、精神的に疲れていたので早めにキャンプ。/たき火をしかけて止める。/雲海に沈む夕日が綺麗だ。彼女にメールしたいがつながらない。/一人で歩くというのは大変なことだ。ここのような安全で無いところはなおさらだ。/明日は、まず安全第一に、そして距離を稼ごう。/しかし、なかなか余裕ができない。歩いて、食べて、寝るだけの生活ではもったいない。早く生活のリズムを安定させたい。/夕食はカレー、味噌汁、お茶。/行動食のドライフルーツのせいかガスが止まらない。/まずは5時起床、6時半出発を目指そうか。/Today 7.0Mi, Total 187.2Mi
5月6日(火) 5時起床のはずが6時半起床。これではいかん。/7:45出発。凍った道を慎重に行く。10:15FullerRidge通過。難所は過ぎた。/あとはひたすら下るだけ。あまりにも長く単調な道。辛い。/夕方、大きな蛇を見る。トカゲも多い。/18時過ぎ、ようやく谷底に降りる。風がとても強い&砂ぼこりがすごい。風車がたくさん回っているのが見える。/明日もきっちり20マイル歩いて早くBigBearで休息をとろう。さすがに今日は足が痛い。バンテリンを使って寝よう。/Today 21.2Mi Total 208.4Mi
5月8日(木) 6時40分起床。よく眠れた。が、疲れはあんまり取れていない。/8時出発。食糧が予定より少なくなっていることに気づきしばし呆然。/午前中は気持ちのいい登り、午後から伸び悩む。/道を間違え、1時間ロス。最後5マイルはバックパッカーズ・ハイで乗り切る。/夜、氷点下の冷え込み。寒い。たき火で調理していたら鍋ごと火に転落し、ただでさえ少ない食料を失う。/もーたまらん。きつい遊びだなあ/Today 18.8Mi Total 248.1Mi

 ストームでさんざんな目にあった身体もイーディルワイルドの街で回復。翌日からトレイルに戻ったが、そこでも僕を待っていたのは酷暑と酷寒とが交互に訪れる南カリフォルニアの春だった。午前中に凍った雪を踏みしめたその足で、午後にはトカゲを踏みそうになる。トカゲならまだしも(トカゲは足音だけで逃げていく)、ぼーっとしているとトレイルで日向ぼっこするラトルスネーク(ガラガラヘビ)を踏みそうになって飛び上がることも。
 スタートから200マイル、約2週間を過ぎるこのあたりで、たいていの人は足の裏が目もあてられない状態になってくる。(メキシコ国境で会ったパットはイーディルワイルドの街で医者にかかって足止めを食っていた。)それにくわえてこのしんどい気候。PCT踏破に挑むハイカー達にとって最初の関門となるのはこのあたりだろう。
 後に、トレイルで出会う石部さんご夫妻とこんな会話をした。『PCTを踏破するためには、ただ体力があるだけじゃ駄目なんだ。限られた装備で、どんな環境の変化にも対応できる総合力が必要なんだ。その点、雨に慣れた日本人は対応が上手なのかもしれない』
 確かに、アメリカ人のハイカーは日本人よりも体力はあるかもしれない。だからといって、雪の中をTシャツ一枚で歩いていれば誰だって体調を崩すが、彼らはそんな経験がないからお構い無しに進んで、お約束どおり熱を出して寝込む。そして、せっかくの挑戦を台無しにしてしまうケースをいくつか耳にした。
もちろん、雪の中をサンダルで歩いてくるレンジャーに会った(石部さん談)というような、無茶なアメリカ人もいるのは事実だが、彼らだって人間に変わりは無い。繰り返しになるが、PCT踏破に必要なのは、体力だけでも知識だけでもなく、生きるための総合力なのだ。
5月6日夕方。トレイルに蛇 ~>゜)〜〜〜
同じく5月6日夕刻。San Gorgonio Passにて。
5月7日朝。I-10をくぐる。高速道路を突っ走る車の列を見ていると歩いている自分が不思議に思える。
風の吹き抜けるこうした谷間には風車が一杯。このころは頭に手ぬぐいをまいて歩いてみた。気合が入るような気もしたが、日焼けでひどい目にあった。

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