第1部 南カリフォルニア
 第3章 サボテンと雪(4)
  4月27日(日)マウント・ラグナ〜5月11日(日)ビッグ・ベアー・シティー


5月9日(金)
 6時起床。/無茶苦茶寒い/ジャケットまで着て寝たが何度も目が覚める。シェラネバダへ入ったらダウン1Kgのシュラフにしよう。/プラティパスは凍結、テントも真っ白。風も相変わらず強い。/とりめしを炊いて朝食。食糧危機ほど恐ろしいものは無い。/7時45分出発。フリースを着たまま歩き出す。/トレイルはEASY、一日中食べ物のことを考えながら歩く。三品の赤カツ玉(注1)が食べたい。/12時、Arrastre Trail Camp。予定より早い。最後のパワーバー・ハーベストが美味しい。/夕食のことを考えて歩き続ける。/16時、ビッグベアーの街へ通じるハイウェイ18着。地図を見ていると車が寄ってきて色々と話しかけられる。ピチカート5とスバル自動車が好きだと語るおっちゃん。悪い人ではなさそうなので街まで乗せてもらう。/モーテル6に投宿。シャワーを浴びて、ヒゲを剃って。食事にでたらTinCup達に再会。ツイてる!メキシカンで満腹、部屋に戻ってニノ達とさらにビール。/日本に40分以上電話。/朝と夜、この変化はなんなのか。明日は休みだ! Today 19.7Mi, Total 267.4Mi
5月10日(土)
 7時半起床。7:40にクリスからTEl、皆と一緒に朝食。Cold Milkを頼んだはずなのにHot Cocoaが出てきて参る。でも美味しかった。/部屋に戻ってまた日本と長電話。/歩いて街まで出る。美容院で風邪気味のおばちゃんに髪を切ってもらう。10ドル。/雑貨屋で時間をつぶし、ガソリンスタンドでPhoneCardを購入。/昼食はハンバーガー、手紙を書いて時間をつぶす。/14:00、郵便局で荷物をPickUp。受け取りのみで発送できないと知り、バスで部屋へ戻る。/母親から、依頼した靴、お茶、羊羹/荷物を再パッキングする。/19:00ごろ、歩いて再び街へ。夕食はシーフードフライの盛り合わせ、デザートのアップルパイが甘い。/食べ過ぎて苦しい。部屋で2時間ほど動けなくなる。/シャワーを浴びて、マメの手入れをしながらテレビをみる。/明日は北米支店さんと合流できる。/Today 0.0Mi Total 267.4Mi

注1 三品の赤カツ玉・・・


 僕は街が好きである。街は素晴らしい。『いやあ、私は自然が好きだから、定年退職したら山で自給自足、晴耕雨読の生活がしたいもんですな、ワッハッハ。』なんて語る輩はいっぺんPCT歩いてこいと言いたい。そうすれば街の、文明の有難みがわかるはずだ。
 「歩いているとき何を考えていたのですか?」とはよく聞かれる質問だが、別に今後の人生とか世界平和への道程を考えていたわけではない。もちろん、そんなことを考えるときもあったが、一番多いのは『次の街まであと○○マイル、△日だ!』『街に着いたらまず部屋を取って、シャワーを浴びて・・・いや、先に郵便局へ寄るべきか・・・』といった極めて現実的かつ世俗的な問題ばかりだ。

 街に着く日は朝から足取りも軽い。実際、食糧も少なくなっているので荷物も軽いということもあげられるが、それを差し引いても心が軽い。うきうきしてパッキングも早い。PCTに沿った街の情報を集めたTownGuideを熟読し、その街にはどこに何があるのかを頭に入れて、街での行動を考えながら歩く。シャワーのついたモーテルはあるのか(街で泊まる所が無く、キャンプするのは本当に悲しい・・・)、スーパーマーケットはあるのか、郵便局は何時まで開いているのか、アウトドアショップはあるのか・・・。ああ、わくわくする!

 街に着いたらまず宿を確保する。大体の街にはモーテルと呼ばれる安宿があって、一人一泊30〜50$くらいだ。もちろん、リゾート地や休日前は高くなったり、予約が一杯になったりすることもあるが大体この程度だ。他のハイカーと相部屋にすればもっと安くなる。ベストウェスタンやモーテル6といったチェーン系で充分満足できる。必ず、先にビールを買っておく。
 バスタブが泥だらけになるほど汚れた体を熱いシャワーで丹念に洗う。おもわずうめき声が漏れるほどの快感が頭頂部からつま先まで走る。なんとか耐えてバスから出て、清潔なバスタオルで体を拭き、ビールに手を伸ばす。あせりで栓がうまく抜けない。はやる気持ちを抑えて飲み口にそっと唇をつける。おそるおそる、そして一気に喉へ流し込む。喉を滑り落ちる冷たいビールの刺激。脳みそが溶けそうなほどの気持ちよさ。そのままベッドに倒れこむ。人生でこれほどの至福があろうか。 

 街でしなければならないことは結構多い。休息はもちろん、次の街までの食糧補給や、そのための荷物の受け取り・発送、衣類の洗濯。場合によっては壊れたギアーの修理や代用品探し、あるいは図書館等でインターネットを使ったり。時には観光だって楽しみたいし。曜日によっては開いてなかったり(特に郵便局)するので、計画的に過ごさないとむやみに時間ばかりかかってしまうことに。なかなか頭を使うのだ。

 ハイカー達は、街に留まって移動しない日のことをZERO DAYと呼び、楽しみにしていた。僕もこのBIGBEARCITYの街ではじめてゼロ・デイをとり、文明の有難みを満喫した。白いシーツとシャワーが本当に嬉しかった。

 ただ、街の生活も2日もすると飽きてくる。あんなに恋しかった街の生活なのに、白いベッドで2泊もすると、『そろそろトレイルに戻ろうかな・・・』と思い出すようになる。そしてまた僕らは汚いザックにありったけの食糧を詰めていそいそとトレイルへ戻り、次の街へと歩き出す。
 僕らはやはりバックパッカーという名の旅人なのだ。
 

5月11日(日)ビッグベアーの街へつながるハイウェイ18にて。このころが一番日焼けしていた。髪を切ってもらってさっぱりしたあと。髪型の指定はできなかった。
再び登場、北米支店氏のご令息チョロ太君。昨日ご家族でイチゴ狩りへ行ったとのことでおすそ分けにあずかる。
トレイルから眺めるビッグベアシティーの街とビッグベアーレイク。この街はLAから車で1時間半ほどの湖に面した別荘地。日本で言えば富士五湖のようなところ。標高も高く、夏でも過ごしやすいことから人気も高い。冬はスキーもできるらしい。

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