第1部 南カリフォルニア
第4章 トレイルエンジェルさまさま!(4)
5月12日 ビッグベアシティ〜 5月26日HWY138
5月26日(月)
今日はメモリアル・デイで休日。/5時45分起床。ベーグルとコーンポタージュの朝食。/風がやや強く肌寒い。/7時ちょうど出発。パッキングも慣れてきた。/11時ごろ、アンテロープバレーの眺めのいい場所。写真を撮る。/13時、PinoCanyonRoad。トレイルエンジェルがクーラーボックスを置いてくれている。コーラとバナナをGET。アンテロープバレーに向けてひたすら下る。/17時前、Hwy138到着。トレイルエンジェルの家を訪ねる。工事中といった感じ。/ハイカーの寝場所は馬小屋の隣。ほとんど納屋である。/シャワーを借りて、ビールを飲んで。たまたま泊まりに来ていた友人だというDAN&KARENと話が合う。映画俳優だったらしい。/メキシカンのスナックの後、ステーキとサラダのディナー。ワインとビールをがぶ飲み。/アイスクリームまで食べておなか一杯。ベッドが汚いが、まあいいか。これも旅の楽しみだ/Today 19.4Mi Total 516Mi
この週はしかし、連日いろんな人にお世話になった。10日間ほどでキャンプしたのは4泊ほどに過ぎない。
5月17日 昼にWrightwood発、夜はキャンプ 5月18日 松本邸、LA泊 5月19日 昼にLA発、夜はキャンプ 5月20日 キャンプ、ラウルの失恋話に付き合わされる(前頁参照) 5月21日 貧乏人だらけのRVパークでキャンプ、でもプールで泳げた 5月22日 HikerHeavenから北米支店邸へ、LA泊 5月23日 LAにて休息、靴の修理等、LA泊 5月24日 朝LA発、夜はトレイルエンジェル宅泊 5月25日 キャンプ 5月26日 Hwy138、トレイルエンジェル宅泊
あんまりこんなことを書くと、『連日野宿で風呂も入らずアメリカ縦断した』イメージが崩れてしまうかもしれないので恐縮だが、繰り返しになるがこのあたりはLAから近く、またトレイル上に民家も多いのでこうしたサポートを受けられた、ということである。どのトレイルエンジェルの人々も、本当に心からハイカーたちを歓迎してくれて、食事やシャワーといった物的サービスだけでなく、一人で旅するバックパッカーに励ましという最高の贈り物を与えてくれた。
この日泊めてくれたHwy138沿いのトレイルエンジェル、Skaggs夫妻も思い出深い人たちである。灼熱のアンテロープバレーの入り口に位置するこの家はもともとJack Fair's Ranchとして有名なトレイルエンジェルの家だったらしいが、残念なことに主は昨年亡くなったという。ところが、残された家を購入したSkaggs夫妻がその遺志を継いで、ハイカーのサポートをしてくれていたのだ。
僕が訪れたとき、ハイカーは僕一人で、かわりに夫妻の友人という夫婦が泊まっていた。家はまだ建設中で(アメリカでは家を自力で建てる人が大勢いるらしい)、敷地には『ゴーストタウンを街ごと買って、移築している途中なんだ』と旦那が話すとおり、いつの時代とも知れない廃屋と、砂漠には似つかわしくないロールスロイスが無造作に置かれていた。天井はあるけど床は無い、というむちゃくちゃな家だったが(電気とお湯は出た)、もてなしはほんとに温かく、これでもかというくらい食事とワインを勧められた。泊まりにきていた友人夫妻は元映画俳優とかで、サイン入りのブロマイドをもらった。30年くらい前のブロマイドに違いなかったが、たしかに美人だった。写真を撮ろうと言ったら慌てて口紅を塗りに行った奥さんに、元女優の気合を感じた。
その夜はおそらく移築してきたものであろう、納屋に寝た。隣から馬が顔を出し、砂ぼこりでざらざらのベッドで、お世辞にも快適とは言えなかったけどこんなのも旅の醍醐味か、と思うと酔った頭にも楽しかった。アンテロープバレーを渡る強い風に、一晩中納屋が軋んでいた音を、僕は今でも思い出すことができる。昼間の暑熱を想像もさせない、冷たい、砂漠の風だった。
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